いけばなじん

File No. 83

戸田 紫香さん

戸田 紫香さん

静岡県/浜松支部

「野にあるよりも美しく」を体現
花に息吹を吹き込んで、思いの込もった作品に

いけばなと出合いお花屋さんに転身
師の理解が前へと進む力に

人と人のつながりで紹介していくリレー形式の「いけばなじん」。
幼い頃は、丹精込めて育てたお花を切って飾ることに抵抗を感じておられたという戸田さんですが、いけばなを習い始め、花に魅了され、花に関わることを職業として選択されるまでになったという経歴の持ち主です。お仕事とお稽古に奔走しながら、今年小原流研究院の講師になられました。1本1本の花を大切に優しく扱っている姿が垣間見えるような作品を生み出される戸田さんに、お花へのあふれる思いをお伺いしました。

矢井さんとの出会いはお稽古場
黙々と集中してお花をいける姿に感銘

お稽古でいけた作品(2015年4月)

 矢井さんとは、平成25年12月頃、月1回伺っている名古屋の稽古場で出会いました。お美しい方だなというのが第一印象で、当時はご挨拶のみの関係でした。ある日、二人とも早くお稽古場に到着し、いつものように準備をしていたときに、どちらからともなく話しかけ、何気ない話題から会話が弾みました。お話しされる表情がとても可愛らしく、それまでの印象がガラリと変わったことをよく覚えています。
 今でもお稽古場でお会いし、ご一緒する関係です。いつも黙々と稽古に集中し、手早くおいけになられる姿にお花への熱意を感じています。

気づくと習い始めていたいけばな 興味が高じて、迷いなくお花屋さんになりました

 私の母は花を育てるのが好きで、今も実家の庭は季節の花でいっぱいです。こどもの頃、母が丹精込めて育てた花を切り花として飾ることを、幼心にとても心苦しく思っていました。根のあるものを切ってしまうことに抵抗を感じたのだと思います。社会人となり、勤務していた会社のサークルにいけばな教室がありましたが、当初の私はやはり、お花を迷いなく切る姿に抵抗があり、サークルでお稽古されている皆さんを横目でちらりと見ているような状態でした。それなのに知らぬ間に、私も皆さんと一緒にいけばなを習い始めていました。

お稽古での作品(どちらも2013年7月)

 いけばなを習い始めてからは、私たちの手元に切り花が届くまでに、生産者や市場、卸問屋さんなど、多くの方たちの思いが込められていることに興味が湧きました。それがいつしか「お花屋さん」という仕事への興味となって、迷いなく転職しました。7年後には独立し、細々とではありますが自分のお店を持つことができました。
 御祝・感謝・お礼・労い・詫びる気持ちなどを花に託して贈り物にされるお客様から、多くのことを学びました。私の役目は何か?私が出来ることは何か?と自分に問いかけ、お客様の気持ちにお応えしたくて毎日が必死でした。
 そして、丹精込めて育てられた植物の命をいただき、仕事が成り立ち、お稽古出来ることに感謝するとともに、迷いなく鋏を入れる心の強さを養うことが出来ました。

浜名湖花博にて、テーブルコーディネーター・佐倉麻耶先生とコラボ出展(2014年4月)

 そのような日々のなか、師匠の野田俊枝先生には私の仕事に関してご理解いただき、仕事を終えた後、遅い時間からお稽古をしてくださったり、先生のお宅まで伺ったものの、お稽古をせずにお花だけ持ち帰ることをお許しいただくなど、いろいろな面で寛容に見守っていただきました。疲れ切った私の顔を見て、先生が温かいお抹茶を点ててくださったときに、両手でお茶碗を包み込んで冷えた手を温めたことを今でも思い出します。「お稽古を続けるなんてもうダメかもしれない」と何度思ったことかわかりません。本当にご迷惑ばかりかけてきた弟子でした。ただ、今振り返ってみると、無理をせずひと休みしながらも、野田先生のご理解を得ていけばなを続けてこられたからこそ今があるのだと実感し、言葉では言い尽くせない感謝の思いが込み上げてきます。

野田先生副教務の御祝いで、社中の皆さんとお食事会(2013年7月)

自分と必死に向き合いながら取り組んだ花展
どの作品にも思いがあふれています

中日いけばな芸術展(2011年6月)

 現在、浜松支部で幹部を務めさせていただいておりますが、花展には準幹部になる以前からかれこれ18年間出品してきました。その都度、野田先生に相談し、「今のあなたの気持ちに素直にいけなさい」と助言をいただいて作品を決めてきました。時には自分が見つからず、迷路に入ってしまったこともありました。その度に、私は何をいけたいのか、私自身が何を望んでいるのかを必死に考えながら、花展に取り組みました。そのため、一つひとつの作品への思いは深く、不安に押し潰されそうな頃や気力あふれる頃、心穏やかな頃と、どの作品も大切な思い出となっています。

中日いけばな芸術展(2012年4月)

 浜松支部で準幹部として10年間、研究会会場のお手伝いをしてまいりましたが、幹部としては3期目の未熟者ですので、まだまだ幹部諸先輩方からご指導をいただいております。会員の皆さんが気持ちよく研究会に出席し、支部行事にもご参加いただけるよう、今後も努めてまいりたいと思います。

オークラアクトシティ浜松・幸せな新郎新婦がバラの香りに包まれた婚礼メインテーブル

新婦の希望をかたちにしたウェディングブーケ

仕事の合間をぬって、散歩で気分をリフレッシュ
繊細に季節を感じることができる大切な時間

 現在、自宅を仕事場にしてお客様から受注をいただいております。私自身の、またお弟子さんたちのお稽古のため、時間をやり繰りしている次第ですが、そんななか近頃は散歩によく出かけるようになりました。自宅が湖の近くなので湖畔の景色を眺めながら歩くのが楽しいひとときです。車で通り過ぎてしまうと気づかない景色や季節の変化を、歩くことで繊細に感じることができます。浜松市北区引佐町にある小堀遠州作「龍潭寺(りょうたんじ)庭園」までふらりとドライブにでかけ、静かな時間を過ごすのも大好きなリフレッシュ法のひとつです。

ホテルクラウンパレス浜松・新郎新婦らしさを演出した婚礼メインテーブル

景色を眺めながらゆったりと贅沢な時間を楽しむ龍潭寺庭園

【戸田 紫香さんに一問一答】

好きな花

菊(シルキーガール)、バラ(特にフェアビアンカというスプレー咲きの薔薇は香りに癒されます)

好きな作家

葛飾北斎

好きな作品

小布施の北斎館に展示されている『菊』という版画

マイブーム

ジムで筋トレ、その後のサウナ。

戸田 紫香さんからご紹介いただいた次回の「いけばなじん」は、アレイ・ウィルソンさん(仙台支部)です。研修過程Ⅱ期からご一緒されていて、日本人よりも日本人らしく、義理と人情に厚い方だそうです。戸田さんが特に素晴らしいと思われるのは、いろいろな方の意見をご自身できちんと理解して前進されるところだとか。また、欲張らない「シンプルイズベスト精神」の持ち主で、尊敬できるご友人とのこと。どうぞご期待ください。