異国に住んでいるからこそ
深まった日本文化への造詣
アメリカで暮らしながら
故郷の鳥取でもお稽古を続ける意義
留学を機に渡米、現地で出会ったご主人と国際結婚をされたことで日本文化の良さにあらためて気づくとともに、さらなる勉強の必要性を感じたと言われる井上さん。シカゴ支部副支部長を初め、いけばなの知識と語学力を活かし海外でご活躍中の今も、毎年夏には帰郷し恩師のお教室で研鑽を続けていらっしゃいます。異国で暮らされているからこそ深まった日本と日本文化についての思いをおうかがいしました。
清楚でしっかり者の神田さん
子育てをしながらの熱心なお稽古姿に感銘
2014年夏アメリカから一時帰国中に、故郷・鳥取の竹内 豊初先生宅でお稽古をしていただいている際に、ご主人の転勤に伴いその年の春、東京から鳥取に戻られたばかりの神田さんに初めてお目にかかりました。お母様の倉吉支部・中瀬 香富先生とは何度かお教室でご一緒させていただいたことがあり、「とても純粋で清楚なお嬢さんなのよ」と言うお話は他の生徒さんがたからうかがっていましたが、初対面の印象は「お噂どおりとっても可憐!」で、ご懐妊中にもかかわらずテキパキと準備をし、お花をいけられる姿が夏の盛りにとても清々しく感じられるとともに、先生とのシャープな問答に、外見の印象とは対照的に芯の強い、しっかりした方だと感心いたしました。私自身、妊娠中に動きが制約されたり、育児で何かと大変だった時に、かえっていけばながしたくてたまらなかった時のことを思い出し、心の中でいつも「頑張って!」とエールを送っておりました。
アメリカ在住に加え、2人とも子育て真っ只中で、現在は、帰国時に、お稽古場でお目にかかるぐらいしかできない状況ですが、華奢ながらも子育て・家事・お稽古を黙々とこなされる姿に刺激を受けるとともに、励みにさせていただいており、何ごとにも一生懸命取り組む神田さんを“日本のたくましい母”としてアメリカに戻ってもことあるごとに思い出しています。
自信を持って日本文化を伝えたい
母も学んだ小原流いけばなを選びました
いけばな・茶道・日舞をたしなんだ経験より、アメリカ留学時代に現地の小・中・高等学校、教会などから「日本や日本文化についてプレゼンテーションをして欲しい」と依頼を受ける機会が頻繁にありました。その頃は日本人として自然に身につけていた“たしなみ程度”の日本の伝統文化しかお伝えできなかったのですが、現地の方は初めて見聞きする話を興味深く受け入れてくださいました。しかしその後、大学で専攻していた比較文学の授業中に、教授や日本を初めとする東洋文化を広く深く研究していたクラスメートから日本の国・文学・芸術などについて洞察に満ちた質問を受け、答えに困ってしまうことがたびたびありました。当時、小原流いけばなを習っていた実家の母に「日本人女性として、いけばなはしっかり身につけておきなさい」と口癖のように言われていたこともあり、留学中に知り合った夫と国際結婚しアメリカで生活することが決まった時「これから日本文化をお伝えする機会がもっと増えるだろうから中途半端な日本文化の紹介ではなく、自信を持って海外の方にお伝えできるものがほしい」と思い、いろいろな伝統文化の中からいけばなを本格的に学び直すことに決めました。今でも日本文化を研究者並みにご紹介するまでにはいたっていませんが、いけばなに関しては、資格を有し、日々精進しているつもりでおりますので、以前より意義深いお答えができるはずと自負しております。
●いつもお世話になっているシカゴの花問屋の皆さん(2016年1月)
2010年シカゴでNAOTA(北米小原流教授者連盟)シカゴ大会が開催された際に、デモンストレーションの責任者を務めさせていただきました。宏貴家元、小原 稚子最高顧問、関 邦明相談役(当時教授)、西 晃宏助教授(当時講師)を私の車にお乗せして、シカゴの花問屋・ホームセンター・画材屋をご案内した時の緊張と楽しさは今も忘れることができません。大きな行事の準備から開催にいたるまで細部に関わらせていただけたことは大変光栄なことでしたし、海外に住む私たちが滅多に触れることができないような見事な作品を間近に拝見でき、本当に感激いたしました。
●NAOTA(北米小原流教授者連盟)シカゴ大会にて(2010年)
左からCourtney Cokeさん、私、宏貴家元、関 邦明相談役(当時教授)、西 晃宏助教授(当時講師)
三人の恩師に感謝
技術だけではなく人としてのあり方も伝授
現在は、毎夏帰国のたびに竹内 豊初先生にお稽古をしていただいております。
約2カ月と限られた日程のため、滞在中は通常お稽古がない日まで都合してくださるなど、暑さが厳しい鳥取の夏の猛特訓のため、お忙しい先生に大変なご負担をおかけしておりますが「お稽古のために帰国していらっしゃるのだから」といつも快く引き受けてくださいます。先生にはいけばなの技術だけではなく、ひたむきさやプロとしての姿勢、自分を犠牲にしても生徒を大切にする心も教えていただきました。
いけばなを学ぶ者として嬉しかったことの1つに、研修課程中、自分の作品に参考花の札が立った時のことを思い出しますが、この時は特訓をしてくださった竹内 豊初先生、平井 豊玉先生のご恩に少しは報いることができたのではないかと思い、あらためて感謝の念があふれました。
そしてシカゴでの私のいけばな生活のスタートを助けてくださった故・アーンスト和子先生からは、シカゴ定住者会教場を引き継がさせていただきました。いつも「貴女は教えなさい!」と叱咤激励してくださったことが、今も私の支えとなっています。
いけばなを世界中の人に知ってもらいたい 技術だけではなく花の文化や意味を学ぶことも楽しみ
年に一度の社中展は、私がお教室を持たせていただいているシカゴ日系人定住者会で開催する文化祭でおこなっており、アメリカ中西部からたくさんのお客様が来場してくださいます。日頃のお稽古では私の趣向が出てしまうこともありますが、社中展では基本的には生徒自身が花材を選び、自由に表現できるようにしています。そのため花型よりも花材選びの方が大変なようですが、できあがった作品からは、普段うかがうことのできない一人一人の感性がとても興味深く、教授者としての喜びを感じるひとときでもあります。
●自宅教室の生徒と(シカゴ/2016年1月)
現在、小原流シカゴ支部副支部長ならびにいけばなインターナショナル役員を務めておりますが、日本発祥のいけばなが世界中へ広まる一端を自身の技術向上とともに担い続けたいと日々思いを深めています。
●年に1度のチャリティー花展に参加した社中の皆と(シカゴ/2014年秋)
●上 教室での1コマ 次女の貴彌子(左)、生徒の真由ちゃん(右)(シカゴ/2015年冬)
下 真由ちゃんと作品(シカゴ/2015年春)
アメリカを拠点としてヨーロッパへ出かけることもよくありますが、行く先々でどんなお花がどのように飾られているか、美術館で出合う絵画の中にお花がどのように描かれているかにもとても興味があり、現地の方や学芸員などにその意味を尋ねることもあります。神話にもお花が多数登場しますが、お花の意味を理解する人にのみ物語の神髄が伝わるという所が、推理小説を読みすすむ時の感覚にも似ておりいつもワクワクします。
これと相通ずるのか好きな花としていつも百合とバラをあげる私ですが、想像やロマンを掻き立てるという点ではバラに賞杯を授けたいなどと思ってしまいます。
【井上 叡玉さんに一問一答】
●好きな花 | 百合、バラ |
●好きな作家 | 作曲家 モーリス・ラヴェル |
●好きな作品 | 夜のガスパール(Gaspard de la nuit) |
●マイブーム | 絵画・音楽・小説や詩・昔話や神話に登場するお花の意味を調べること |