いけばなじん

File No. 134

大國 一葉さん

大國 一葉さん

島根県/出雲支部

いけばなには、
学びのすべてがある

刺激を受けて次の発見へ
葉の一枚にも神経を注ぎたい

小原流発祥の地である島根で、おばあさまが丹精込めて育てられた草花に囲まれて育ち、その環境が自然にいけばなとのご縁に繋がった大國さん。研修課程で出会ったお仲間との友情は、コロナ禍という異常事態の中でお互いを励まし合う力となっています。緊張の中で学んだ地区別教授者研究会、お家元との思い出などのほか、茶道や神事、山や草花とのふれあいなど、出雲ならではの魅力的なお話もお伺いしました。

優しい笑顔と包容力が魅力の西村さん
コロナの自粛期間中も励まし合い、情報交換

西村さんとは、2019年6月の研修課程Ⅱ期・前期で出会いました。所属支部から一人で参加し、心細く思っていたところ、近くに座っていらした西村さんと、どちらから声をかけたかは忘れましたが「おはようございます」から、「どちらの支部で?」などのやりとりをしたのが始まりです。研修期間中は、お花のことはもちろん、いけばな以外でも大変話が弾み、西村さんのお友達の方々と楽しくご一緒させていただきました。西村さんの笑顔と優しい話し方が、不安な私を温かく包んでくださいました。コミュニケーション力の高さ、ぐいぐい人を引き付けていく包容力が素敵だなと思いました。

お話をするうちに、同じ小原流でも地方と東京でのいけばな環境の違いに私は目を見張りました。例えば、お稽古で使うお花の入手方法や価格、または公共の場所での挿花ボランティアの工夫やご苦労など。情報が少ない田舎のデメリットばかりに目を向けてはいけないなと感じました。

現在は、主にLINEや電話でやりとりしています。研修課程Ⅱ期の後期では再会を喜び合い、切磋琢磨しました。結果通知が届き、来年も一緒に頑張ろうと連絡し合っていたところ、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出されました。4~5月は外出することもなく、休日はずっと自宅でお花をいけて過ごしましたが、西村さんも同様だったようです。「お花があるから何とか乗り切れそうね」と電話で励まし合い、インスタグラムのPhoto花展などの情報もお知らせいただきました。

幼い頃に芽生えた花への興味
小原流発祥の松江では必然の出合い

いけばなに惹かれたのは小学生時代までさかのぼります。学校では、卒業式や入学式に毎年大作が式場に飾られ、地域のおじいさんが梅や松の大木を活け込まれていました。子供心に「私もやってみたい」と母に言ったことを覚えています。また、花好きの祖母がお花をたくさん栽培していたので、家の中には常に切花が飾られていました。

 本格的にいけばなを学び始めたのは大学4年生になってからです。小原流を学んでいた松江在住の伯母の勧めもありました。習ったお花は大学の研究室に飾っていたのですが、先生から大好評で、わざわざご自宅から珍しいお花を切ってきていただくこともありました。後に分かったことですが、先生の奥様も小原流をされていたようです。松江は小原流発祥の地ですので、松江でいけばなといえば「小原流」なのですね。そんな先生との思い出の花といえば「ミツガシワ」。いけばなで使われることはあまりありませんが、春、ミツガシワが一面に咲いた赤名湿地を訪れると墓参りしたような気持ちになります。

大学の先生との想い出 ミツガシワの花(2016年 島根県赤名湿地)

地区別教授者研究会に挑戦
「学び続ける姿勢」をいつも心に

もっとも思い出深い出来事といえば、初の地区別教授者研究会への参加でしょうか。中国地区では毎年岡山市で開催されます。出雲からだと岡山まで特急で約3時間半。早朝に自宅を出て帰宅は夜遅くになるため、子供が小さいときの参加はなかなか容易ではありませんでしたが、「いい勉強になるから」と支部の先輩に誘われて初めて参加しました。その時は5~6名での参加だったと思います。瓶花は主枝が上手く留められず、盛花は写景盛花自然本位の指定でまとまらず、筆記もしかり……。ゆっくり考えれば何でもないことだったのですが、緊張を伴い、初チャレンジした地区別教授者研究会の結果は、当然ながら惨憺たるものでした。当日知らされた花材を手にしていけるという、支部研究会とは全く異なる地区別スタイルは本当に良い刺激になりました。結果にめげることなく「とにかく毎年参加しよう」と心に誓い、その後は毎年参加しています。

以前の地区別教授者研究会では、小原規容子理事長がお家元の近況をお話しくださるのも楽しみのひとつでした。中学生から高校生、大学生へと成長なさっていくご様子をお母さま目線で柔らかく話される姿に、私にも同じ年の息子がいることもあり、親しみを感じながら拝聴しました。また、最後の講評で行われるデモンストレーションもよい勉強になりました。おかげさまで、これまでに95点の優秀花を2回、優秀賞を4回いただいております。それが昨年の研修課程Ⅱ期への参加につながっていきました。

地区別教授者研究会 瓶花(2004年 優秀賞受賞)
地区別教授者研究会 盛花(2016年 優秀賞受賞)

地区別教授者研究会の筆記試験ではいけばな関係事項の出題があります。問題集を読むだけでなく、東京や京都の美術館へ絵画を観に行くようになりました。幸運にも次々と企画展が開催され、狩野永徳、本阿弥光悦、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一、長谷川等伯、伊藤若冲などの本物の作品を鑑賞することができたのです。本物は凄いです!写真では、その迫力や微細な表現がわずかしか伝わってきませんが、展覧会での本物の力に圧倒されました。たとえば等伯の「松林図屏風」では、作品の前に立ったときの奥行きの深さや、円山応挙の「雪松図屏風」の雪など、言葉ではうまく表現できませんがとにかく惹きつけられました。また、修学旅行の引率で訪れた奈良・東大寺では、大仏殿の供花瓶に藤掛似水の名前を見つけて一人で感動していました。調べて探したわけではないのに自分の目でその人物名を発見し、その建物の中で江戸時代の出来事に思いを馳せることができ、うれしくなったのです。いけばなを起点として、私の興味関心が多元的に発展していったことも、私の人生に多くの彩りを与えてくれました。

そんな想いを作品として表現する際、「葉の一枚にも神経を注ぐ」ことを心掛けています。雅号を「一葉」としたのも自分で意識して忘れないようにするためでした。

アットホームに活動する出雲支部
お家元とのふれあいが思い出深い周年花展

出雲支部創立60周年記念いけばな小原流展 家元作品と社中のみなさんとともに
(2017年10月 出雲文化伝承館にて)

出雲支部の会員数はそれほど多くありませんが、その分とてもアットホームです。研究会が年間5回あるほか、みんなの花展は年に1回、支部のレクリエーションでは近隣他支部の花展見学などを行っています。そして、10年に一度周年記念花展が開催されます。花展では支部長先生を中心に幹部の先生方、専門教授者がみんなで力を合わせて開催しています。

2017年秋には、支部創立60周年記念いけばな小原流展を開催し、会場近くの出雲大社ではお家元の献花が行われ、来場者も多数お越しいただくなど大好評・大成功のうちに終了いたしました。私は専門教授者の一人として、出瓶の他、献花会場への送迎バス係、呈茶席での案内接待を担当させていただきました。その際、お茶席の茶花を迷っていたところ、お家元の挿花後の山芍薬の実がいくつか残っていたのを目にしました。それを戴けないかと思い切ってお願いしたところ、ジョーク混じりに「ここのお花全部を差し上げますよ」と、本当に気さくなお返事を頂戴しました。翌日、お家元がお茶席にお越しになられた際にお花を話題にしてくださり、私もお家元に「来場の皆様が『あの実は何の実ですか?』と聞かれるので、『お家元の作品に使われているお花で山芍薬の実です。お家元から頂戴いたしました。』とお話しし、皆様に喜んでいただきました。感謝申し上げます。」とお答えいたしました。また、お家元が興味を示された松平不昧(まつだいらふまい)公の琴の画賛についてもお話しさせていただきました。

出雲支部創立60周年記念いけばな小原流展 呈茶席の床(2017年10月 出雲文化伝承館にて)

三斎流茶道、吉兆神事、野山散策
いけばなと違う学びにも感動の日々

夜咄の茶事にて (2020年2月 島根県雲南市)

お花以外には三斎流茶道を学んでいます。出雲地方では松江城山茶会をはじめとする市民茶会が多く開催されます。「お茶会でお茶をいただく作法をきちんと知っておきたいわ」くらいの軽い気持ちで始めたのがきっかけでしたが、その奥深さに私の学びモードがどっぷりハマってしまいました。

入門したのは、松平不昧公と深い関連のある三斎流でした。流祖の細川三斎公は利休七哲の一人で、そのお点前は利休と寸分違わぬ所作だったと言われています。テキストなどは一切なく、見て聞いて身体で覚えるという武家茶道です。お稽古ではおのずと全神経が集中し、お花とはまた違う心地良い学びのスタイルです。やがて自分で着物を着て、髪をまとめ、お茶会のお手伝いにも参加できるようになりました。現在では、お茶事の亭主を務められるようお稽古しています。

茶事道場「自蹊庵」庵主 半澤鶴子先生のお茶事のお手伝い(2018年5月 松江市)

私は出雲大社の門前町に住んでおり、毎年正月3日に行われる吉兆神事(きっちょうしんじ)には氏子、保存会の一員としてお囃子で参加しております。これは歳徳神(としとくじん)と縫取りした吉兆幟(きっちょうばん)を立て大社神謡を歌い、歳徳神に祈りを捧げる島根県の無形民俗文化財に指定されている神事です。その吉兆幡を先祓いして歩く「番内(ばんない)」という役があります。通常は厄年の男性がその役を務め、自分の厄を払うとされています。私は番内の衣装制作を手がけ、大人用一揃え、子供用三揃えを制作しました。もともとは自分の子供や夫が着用する目的で制作したのですが、いつのまにか番内衣装を毎年使用していただくようになったのです。毎年の吉兆神事への参加には、年末からのお囃子の練習、吉兆幡の準備などありますが、町内の保存会の皆さんと一緒に祈りを捧げる出雲大社ならではのお正月の賑わいです。

番内を先頭に歩く『吉兆さん』(2020年 正月)
大万木山のブナ(2018年)

植物に触れているのは心安らぐ時間です。いけばなはもちろん、野山散策も楽しい時間です。家の周囲もさまざまな植物であふれていますが、車で1~2時間ほど走ると、中国山地のブナ林があり、毎年四季折々にお友達と山に登っています。春の船通山(せんつうざん)を登ると、山頂はカタクリの花畑です。夏から秋には大万木山(おおよろぎさん)、ブナとクロモジの紅葉が見事です。また、島根と広島の県境にある吾妻山には、春に三柏(ミツガシワ)、水芭蕉、梅惠草(バイケイソウ)、秋は田村草、松虫草、梅鉢草、竜胆、鳥兜などが咲いています。昨年、もっと高い山に登ろうと鳥取県の大山に久しぶりに登り、九蓋草(クガイソウ)や鳥足升麻(トリアシショウマ)、山荷葉(サンカヨウ)を見てきました。さらに、夏には岐阜県に行き、槍ケ岳と北穂高岳にも登ってきました。写真でしか見たことのなかった車百合、岩桔梗、兎菊、塩釜などが咲き乱れ、雄大な北アルプスの景色に感動の連続でした。今年も北アルプスに登ろうと話していたのですが、叶わず残念です。新型コロナウイルスのワクチンや薬ができるまでの我慢です。

「見る・観る・聞く・聴く・話す・伝える・書く・まとめる・手を動かす・自分から行動する・自分から情報を求めていく」など、学びの方法にはさまざまありますが、今日にいたるまで、「学び続ける姿勢」を持ち続けてこられたことが小原流いけばなから受けた一番の恩恵であり、財産だと思っています。私は子どもたちに教えることを仕事としていますが、常に自分自身も生徒であり、これからも学び続けていきたいと思っています。

北穂高岳山頂 標高3,106mにて 後方に槍ヶ岳(2019年8月)

終わりに

新型コロナウイルス感染拡大により、地区別教授者研究会も、お話ししたお茶会も、来年の吉兆神事も中止が決定してしまいました。どうか、一日も早く、ワクチンや治療薬が開発されますように。また、医療従事者や感染者の方々への差別や誹謗中傷を無くし、皆が安心して生活できる、心豊かな社会になることを切に祈ります。私は今、自分にできることを一生懸命に努めていきたいと思っています。

【大國 一葉さんに一問一答】

好きな花

桜、三柏、桔梗、吾亦紅、椿

好きな作家と好きな作品

酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」、円山応挙「雪松図屏風」、伊藤若冲「動植綵絵」

大國さんにとってのマイブーム

自分で採集したり、育てたりした植物でお花をいけること。コロナの影響で休日に早朝散歩を始めました。少し歩くと、山羊歯や山帰来、藪蘇鉄などがあります。野薊をクイックディップで水揚げして写景に。庭の鳴子百合や撫子、花菖蒲、紫陽花を使って琳派に。夏の水田にはオモダカやコナギがいっぱい。これも写景に。咲いたお花で取り合わせを考えるのが楽しいです!

大國一葉さんからご紹介いただいたから次回の「いけばなじん」は、平田佳子さん(静岡県・静岡支部)です。研修課程の会場で西村さんと一緒におられ、いろいろなお話をするうちにとても仲良くなりました。とにかく勉強熱心で、学んだことを丁寧にノートに記録し、何度も確認なさっていたので、周りの受講者も随分助けられました。海外生活経験もおありだそうで、一緒にいるととても楽しい方とのことです。どうぞご期待ください。