いけばなじん

File No. 121

穴井 貴遙さん

穴井 貴遙さん

佐賀県/佐賀支部

いけばなの伝統を受け継ぎ
次世代に感動をつないで

誠実な師弟関係を築いてゆきたい

小原流いけばなを教えていたお母さまのもと、高校生でお稽古を始められた穴井さん。育児が一段落した頃、ある花展をきっかけにいけばなの魅力を再発見し、いけばなじんとして、教授者として新たな一歩を踏み出す決意をされたそうです。真摯な姿勢で生徒と向き合い、ひとつひとつの出会いを大切にされている穴井さんにお話を伺いました。

佐賀で出会い東京で温めた友情
感動を共有できる髙橋えりなさん

 髙橋えりなさんに初めてお会いしたのは、彼女が佐賀に転勤された2014年9月、時を同じくして主人が東京転勤した頃です。当時、私は佐賀と東京を往き来しており、母のお稽古場で出会ったのがご縁の始まりでした。「入れ替わりですね」「東京のお勧めランチを教えて」などとたわいのない世間話をしたように思います。
 彼女のいけた花には清潔感があり、毅然とした意志が感じられました。彼女の第一印象も花と同様に知性的、それでいてお嬢さんらしい初々しさのある女性だと感じました。
 彼女が東京に戻ってからも交流は続き、自宅へお茶にお招きしたり、花展や美術館へご一緒するなど、娘のいない私にとって幸せなひとときを過ごすことができました。お話の中で、上野の東京国立博物館で開催された「大琳派展」や、オフィーリアの絵画など、同じものに感動したことが分かってグッと心の距離が縮まりました。
 現在は主人が佐賀勤務となったのでお会いできる回数は減りましたが、文才豊かな彼女から楽しいメールが届きます。距離を忘れさせてくれる心配りを感じる度に、大和撫子とは彼女のような人のことだろうと思います。先日も、かつて私がえりなさんに語った言葉を後輩に贈ったそうで、「ペイフォワード(人から受けた厚意を他の誰かに贈ること)できました」と幸せの恩返しを伝えてくれました。
 お祖母さまもお母さまも小原流いけばなを学ばれていたとのこと。彼女も同じ小原流の花を愛する仲間として、これからの小原流を未来へしっかり繋いでくださると確信しています。

研究会優秀作

母の指導でいけばなの道へ
多くの貴重な体験をさせていただいたことへの感謝

 母が自宅で小原流いけばなを教えていたので、高校1年生の時に幼なじみと一緒にお稽古を始めました。その3年後、三世豊雲家元が「佐賀支部創立30周年記念式典」で佐賀にお越しになりました。その際、振袖を着て花束を贈呈した思い出があります。

 いけばなとブランド服とのコラボレーション企画が開催されたこともありました。舞台上に制作されたいけばな作品の間を支部会員がモデルとなって歩くファッションショーで、私はショートパンツで舞台を歩き気恥ずかしかった記憶がありますが、今となっては懐かしく感じます。 また、息子が3歳の頃、講習会の舞台上に上げていただき、薄やフォックスフェイスの投げ入れ体験をさせていただいたこともありました。おおらかで支部活動の盛んなよき時代に貴重な経験ができ、大変ありがたく思っています。

特別講演会「いま豊かさをあなたと」における”いけばなファッションショー” 
前列右から2番目が穴井さん(1981年4月)

3人の子育てを経て復帰したいけばな
母の社中の結束力に胸を打たれ教授者の道へ

 結婚後は3人の息子の子育てに追われ、お稽古したくても時間や心に余裕がなく、里帰りか母が遊びに来てくれた際に花材に触れたり、息子と一緒に絵本代わりに作品集『コンテンポラリーいけばなⅠ・Ⅱ・Ⅲ』(婦人画報社)を見たり、お盆やお正月など来客がある時にいける程度でした。長男が高校に進んだのを機に本格的にお稽古復帰。同時に、三男もいけばなの稽古を始めました。

 その後、母の喜寿記念社中展『はな源氏』に参加したのがきっかけで表現する楽しさを覚え、何より母と社中との家族のような絆に心打たれて、私も教授者として活動し始めました。

母の喜寿社中展に参加 「花源氏」より[若紫]
母の傘寿記念社中展 賛助作品「迎花」

 教授者として指導するにあたり、
○「社中とすてきな人間関係を築きたい」
○「子育てのストレスを感じるママたちに、いけばなでひとときの癒しを感じてほしい」
○「いけばなに興味のある子どもたちを指導し、次世代に繋ぎたい」
そんな目標を掲げ、教えるからには自信を持って指導に携わりたいと研修課程Ⅰ期にも参加しました。

 初めての研修中、体調を崩した私を気遣ってくださった皆さまの優しさには今も感謝しています。
 研修課程Ⅲ期受講中ですが、日本全国や海外で勉強なさっている会員の方々を知り、目が覚めたように思います。
 今は福岡の守下篁先生の下でご指導を仰ぎ、その社中の一員であることに誇りと贅沢さを感じています。

研究会優秀作

大切につなげていきたい生徒との絆
体験して得られる感動を皆に感じてほしい

 佐賀支部では、若輩者ながら副支部長として支部活動に取り組んでいます。先達から伝統を受け継ぎ繋げることを胸に、謙虚さと真摯な姿勢で精進してまいりたいと思います。
 自身の活動としては、自宅教室や古湯教室(佐賀市)で指導するほか、佐賀新聞社文化センターのセミナー講師も務めさせていただいています。伝統文化いけばな親子教室は、今年で4年目になりました。日々の指導では、生徒の負担にならないようできるだけフレキシブルな対応を心がけ、月1回から2回、楽しくお稽古することを第一に考えています。ビジネスライクになりがちな現代の師弟関係ですが、細く長く修練することで小原流の技術を習得してほしいという考えのもと、誠実に、また大切に絆を育みたいと思います。将来は親子展・社中展・造形展にもチャレンジするのが目標です。
 また、体験レッスンにも注力しており、今までに生涯学習センターで5回、小学校で3回、その他企業、花市場イノベーション企画、佐賀新聞社セミナーで開催しました。幅広い年代の方に体験レッスンを通じて小原流を身近に感じていただきたく、今後も開催していく所存です。

佐賀新聞掲載作品
佐賀地区伝統文化いけばな親子教室

 「第7回九州地区青年部野外展」が佐賀・吉野ヶ里で開催された際、五世宏貴家元がどしゃぶりの雨に打たれながら、一作一作を丁寧に説明くださいました。その思い出は、伝統文化で参加した親子にとっても、一生の財産になるはずだと確信しています。これからも若い方々の記憶に残る体験を一つでも創っていけるよう尽力したいと思います。

伝統文化こども教室の「第7回九州地区青年部野外展」出品作
親子三代で指導させていただきました(2017年10月)

 実は、私とともに準幹部、幹部となった仲間と昨年10月にお別れしました。亡くなる直前まで「今度はこういう作品をいけてみよう」と語り合っていましたが、志半ばで旅立たれたことが残念でなりません。彼女が大好きだった小原流いけばなをいけられることのありがたさを噛み締めながら、彼女の分まで頑張りたいと思っています。現在はそのご縁で彼女の娘さんを指導させてもらっており、責任を感じながらも「しっかり育てますからね」といつも空に向かって語りかけています。

いつも笑顔が素敵だった彼女(左から2番目。右から2番目が穴井さん)

アートを堪能した東京時代
さまざまなジャンルに触れ、感性を磨いて

 趣味は美術鑑賞や音楽鑑賞で、美術館や音楽ホールなどの建物を見ることも好きです。主人の東京在勤時代にはアートに関する数々の嬉しい経験をすることができました。幸運にも琳派イヤー、若冲イヤーと重なり、展覧会で名品と出合えたこと、日本文学を研究中の息子と心ゆくまで都内の美術館めぐりができたこと、曜変天目茶碗を三品とも鑑賞できたことなど、良き思い出がいっぱいです。
 特に思い出深いのは、根津美術館で観た尾形光琳の「紅白梅図」「燕子花絵図」が並んだ展示。圧巻でした。山種美術館で出合った奥田元宋の「奥入瀬(春)(秋)」に触発され、奥入瀬まで旅行したこともあります。佐賀に戻る直前にサントリーホールで聴いた五嶋龍氏のヴァイオリンも強く心に残っています。

 もちろん、小原流では目黒雅叙園で五世家元の公開制作を見学し、感激いたしました。また、東京・鎌倉・仙台・横浜支部の周年記念花展や、関東各地の「みんなの花展」等を鑑賞することも叶いました。

 これからも能・落語・歌舞伎・雅楽・クラシックバレエ・演劇・お笑いライブなど、ジャンルを問わず、先入観も持たず、自分の五感で体感したいと思っています。

「みんなの花展」会場となった岡田三郎助アトリエにて(2019年)

穴井貴遙さんの教室はこちら

【穴井 貴遙さんに一問一答】

好きな花

蓮の花、ねむの木の花

好きな作家と好きな作品

截金ガラス作家 山本 茜さんの「源氏物語シリーズ」

マイブーム

散策してリフレッシュすること。ドライブして夜景や自然を眺めること。

穴井貴遙さんからご紹介いただいた次回の「いけばなじん」は、松尾雫さん(下関支部)です。研修課程Ⅰ期・Ⅱ期とも同時受講したのが交流のきっかけだったそう。若く優秀で将来有望な研修士ですが、何よりも懐の深さやチャーミングな明るさで誰からも好感を持たれるお人柄。いけばなへの真摯な姿勢が周囲に良い刺激を与えているそうです。小学生への熱心な指導など、次世代への思いにも共感するとのこと。どうぞご期待ください。