いけばなじん

File No. 117

伊藤 豊扇さん

伊藤 豊扇さん

青森県/青森支部

さまざまな出会いを挿花のチャンスに
すべての経験が心の財産

世界観を変えたロシアでの講師経験が
教授活動の礎となって

今回の「いけばなじん」は、前回の樽川さんから「ぜひお話を伺いたい!」とご推薦いただいた伊藤豊扇さんです。学生時代からいけばなを学び、地域との関わりも大切にしながら教授活動に力を入れてこられた伊藤さん。青森支部長として多忙な日々を過ごされながらも、多くの学校や地域活動の場等での指導に奔走されています。ご自身の哲学観をしっかりとお持ちの伊藤さんにいけばなへの思いをお聞きしました。

思いがけずいただいた1本の電話
「いけばなじん」がつないだ樽川好草先生とのご縁

 樽川先生と直接お話をしたのは「次回のいけばなじんでご紹介したい」とお電話をいただいたのが最初です。これを機に次回からの支部長会議で親しくお話ができるのを楽しみにしています。支部運営についてもいろいろとご教示いただけることと思い、「いけばなじん」を通してとても良いご縁をいただいたことに感謝しております。

草花をこよなく愛した少女時代
クラブ活動からいけばなの道へ

 幼い頃から身近な自然に親しんだことが、その後の人生に大きな影響を与えたのかもしれません。物心ついた頃には自宅の敷地内に実のなる木が数種類あり、さまざまな草花が咲いている、そんな緑豊かな環境でした。特に印象に残っているのは、300坪の大きな沼一面に咲く睡蓮と、背丈を競うような真紅のカンナでしょうか。スポーツには全く興味がないかわりに、野に咲く花はもちろんあらゆる草花を愛する“草花大好き少女”でした。小学校と中学校には華道部がなかったので園芸部に所属し、高等学校に入るとすぐ華道部に入部したのは私にとってごく当然の流れだったと思います。
 あれから今日に至るまで、新しい発見と感動で充実した日々を送ってきました。華道部講師の故坂上豊富先生が逝去された1972年以降は、研究会や講習会をはじめ、研修課程などすべての学びの機会にご指導いただいた先生方を師と仰ぎながら歩んでまいりました。そのような状況も今の私に大きな影響を与えています。

「日本女性会議あおもり」青森グランドホテルで行われた分科会にて。
迎え花をはじめ館内の要所にもてなしの花を挿花。りんごを使っています (2002年)

ロシアでの講師経験によって得た自信
どんな状況でも前向きに楽しんで

 いけばな人生における印象深い出来事といえば、ロシアの日本総領事館が主催するいけばな講習会の講師として、ハバロフスクへ赴いたことです。青森県とハバロフスクが友好協定を結んでいた関係で実現したもので、当時はこのような講習会は初の試みということでした。
 滞在期間は2000年9月3〜10日の1週間。詳細は到着後に打ち合わせるとのことで、内容がよくわからないままに現地へ向かいました。単身だったこともあり周囲は心配しましたが、私は何とかなるだろうと大して不安もなく出発したのを覚えています。
 講習は午後5時30分から教育大学の会場で行い、受講生は5日間連続で講習会に参加。最終的に一定の成果が出るまで指導するという集中講座です。受講者24名は、ハバロフスク地方海外友好協会の「すずらんクラブ」といういけばなクラブのメンバーと、チタ市、イルクーツク市、マガダン市、ブリヤート共和国など各市から選抜された方々で構成されていました。受講者の皆さんから、普段は本やカレンダーなどの写真をもとに自主的にいけばなを楽しんでいると聞いた時は大変驚いたものです。
 滞在中はテレビ・ラジオ・新聞の取材も毎日受けました。その他、花材を調達しに市場へ出かけたり、領事館の庭の花をほとんど切らせてもらったり、水揚げ作業も毎日行うなど、盛りだくさんのスケジュール。さらに地元中小企業が開催する見本市でのデモンストレーションも予定されていたため、デモ用の花材を山取りするために中国国境まで出かけたりもしました。講習会の最終日には、最初の受講者に加えて州知事夫人、議員の奥様など地元の名士の方々もご参加くださいました。

ロシア・ハバロフスクで行われたいけばな講習会にてデモンストレーション (2000年9月)

 毎日いけばなのためだけに動き続けた1週間でしたが、不思議と時間の流れはゆるやかに感じました。この時に「どんな状況でも、工夫次第でどうにでもなる」という自信がついたのかもしれません。私にとってとても大切な思い出であり、得難い機会をいただけたことを心より感謝しています。その後いけばなを指導していく上でも大きな力になった体験でした。

いけばな講習最終日 領事公邸にてレセプション (2000年9月)

ベテランも若手も活躍できる支部づくり
若い世代にも造形の楽しさを伝えていきたい

 支部長を拝命してから1年になります。これまでに、現在の支部会員の構成状況に合った研究会時間割の変更や、幹部・準幹部の事務仕事の見直しなどに取り組み、ベテランも若手もやりやすい方向を探りながら工夫しているところです。
 また、日頃から青年部にスポットが当たるよう心がけ、幹部が土台を作り、若手が表舞台で達成感を得られるように配慮して活動しています。今年の「新年のつどい」で迎え花のいけこみや抽選会の進行を青年部に任せたところ、「これまでにない達成感がありました。来年も楽しみです」と、皆、笑顔にあふれていました。この記念写真はまさに言葉どおりの表情だと思います。

「新年のつどい」にて。迎え花を背に皆で記念撮影 (2019年1月)
「第23回造形展」出品作。
 自宅軒下にできたスズメバチの巣と草葦を使った作品(2015年9月)

 自身の活動を振り返りますと、青森支部主催の花展には、2017年に第25回をもって終了した造形展も含め、すべて出展させていただいてきました。特に造形展では、素材決定から一気に仕上げるところまで、苦しくも楽しい時間を過ごせたのが良い思い出です。
 これまで制作した中で一番好きな作品は、蜂の巣と草葦を素材にしたもの。自宅の軒下にできたスズメバチの巣があまりにも美しく、どうしても作品に生かしたくなりました。草葦は造成地一面に生えていたもので、8月の炎天下、すでに乾燥して「使ってくれ」と言わんばかりに風に揺れていました。葦の処理には少々手間がかかったものの、とにかく楽しい制作時間を過ごしました。

 造形作品を作るには「どんな作品にするか構想を生み出す時間」「材料を集める時間」「制作する時間」が必要ですが、これらの時間を見出す難しさがネックとなり、造形展に若手の参加を促すことができなかったのを残念に思っています。作品スケールを小さくするなど、工夫次第で楽しくできるということを何とか伝えたいと切に思いつつ、今後の私の課題のひとつとなっています。

地域に密着した活動を大切に
信頼関係からうまれたコラボ企画

 普段のいけばな指導は、生花店教場、自宅、市民センター3カ所と、男女共同参画プラザ(カダール)のサークル、高等学校2校や中学校などで行っています。稽古場かしゃべり場かわからないところもありますが、日々楽しくいけばなと関わる生活を送っています。
毎年開かれる「市民センターまつり」では、地域町内会作品展の制作を指導。ほとんどの町内会が手芸品を展示する中、私が指導する町会のみが造形作品を出品しているので、目を引くコーナーになります。
 その他、私自身が複数の役職を務めさせていただいている関係で、多くの方々と交流があります。高校同窓会長、短大同窓会役員、学校評議員、町会女性会役員など、役職を通じたつながりや交友関係の幅の広さがいけばなを広める要素になっていると考えています。

今年で18回目となったカダールフェスタ市民活動企画展 (2019年)

 また、活動拠点のひとつである男女共同参画プラザ(カダール)では、他の団体との交流会がきっかけで、男性講座「男の生き方塾」OB会とのコラボが実現しました。団体間の信頼関係ができていれば、新しい試みのコラボも実現できるのだと実感しました。
 大切なのは「自分から発信すること」。自ら発信するからこそ次のステップへつながっていくのだと確信しています。

2019カダールフェスタプログラムより(右下写真の前列中央が伊藤さん)

花のご縁でいただいた貴重な経験の数々
いつもベストを尽くして

 人とのつながりがきっかけとなり、思いがけない機会を頂戴しています。たとえば東北新幹線の新青森駅開業にあたりデスティネーション(大型観光)キャンペーンが展開された際に、「おもてなし」の視点から講演をさせていただいたことがそのひとつです。
 続いては、造形作品をご覧いただいた方の計らいで東北女子短期大学で集中講義を行うことになり、「植物からの発想」をテーマに教壇に立ったこともありました。それまではまさか自分が講演をするなど考えてもみませんでしたが、結果的にとても良い経験を積ませていただけて深く感謝しています。
また、棟方志功記念館でいけばな作品を展示する機会をいただいたのも大変うれしいことでした。

 とりわけ強く心に残る思い出は、2014年9月25日、天皇皇后両陛下が東日本大震災の復興状況視察で青森に行幸啓なさった際に、東北新幹線新青森駅の貴賓室に花をいける大役を仰せつかったことです。二度とない経験であり、誠にありがたく光栄でした。

 どの機会においても、お声がけくださった方の期待に添うよう一生懸命に取り組んできました。おかげさまでひとつひとつの経験が自分の財産です。これからも人とのつながりを大切にしながら、私の生活信条である「無理をしない」「出し惜しみをしない」「できることは一生懸命に」「他人の思惑にとらわれない」これらを基本とし、道を拓いていきたいと思います。

伊藤豊扇さんの教室はこちら

【伊藤 豊扇さんに一問一答】

好きな花

百合、中でも笹百合が好きです。

好きな作家

相田みつを

上記の芸術家で
  好きな作品

花を支える枝 
枝を支える幹 
幹を支える根
根はみえねんだなあ

マイブーム

ひろさちやの「仏教コミックス」108冊
(30年ほど前から本棚に並んでいるのを、最近ようやく手に取るようになりました)

伊藤豊扇さんからご紹介いただいた次回の「いけばなじん」は、坂井久恵さん(十勝支部)です。とある研修で宿泊したホテルの喫茶室でお話しした際、坂井さんの活動をお聞きしてとてもエネルギッシュな方だと感じられたそう。昨年久々に再開し、以前にも増してご活躍の様子だったという坂井さんにお話をお伺いします。どうぞご期待ください。