いけばなじん

File No. 114

荒瀬 豊波さん

荒瀬 豊波さん

青森県/八戸支部

恩師からの教えを胸に刻み
「本物」を目指して続ける弛まぬ研鑚

未来を見据えた支部運営を目指し
伝統を守りつつ変革にも挑んでいきたい

いけばなを始めたのは小学校時代ですが、ブランクを経て結婚後に本格的に取り組み出したという荒瀬さん。いけばなを通じて出会った恩師や諸先生方とのご縁を大切にしながら、充実した活動に邁進されています。現在支部長として八戸支部を支えられている荒瀬さんのお話は、明確な目的を持った支部運営など参考となるアイデアに富んでいます。柔らかな佇まいの中に凛とした信念をお持ちの荒瀬さんにお話を伺いました。

今なお海外でもご活躍の石橋祥子先生
憧れの先輩から受ける刺激と広がる人の輪に感謝

 石橋先生との出会いは2011年の支部研究会で、講師としてお越しになった石橋先生を当時副支部長だった私がお迎えしました。岩手県北部出身の石橋先生は、幼少の頃、八戸支部の3代目支部長・樋口湖洋先生に師事されていたそうです。副支部長を経て現在7代目支部長を務めさせていただいている私にとっても、樋口先生は尊敬する大先輩。その意味でも石橋先生との出会いは八戸支部の歴史を思い起こさせるとともに、強い絆をも感じさせる運命的な出会いでした。
 その後、2013年に石橋先生が講師をご卒業になられる最後の研究会も八戸支部でしたので、この時も強いご縁を感じました。研究会前日、市内でお食事をご一緒した際には、ヨーロッパや南アフリカでの長年にわたるご活躍ぶりや、「昨年訪れたマレーシアのジョホールバル支部の講習会では、現地に花屋さんもなく、生徒たちと一緒に野山に分け入って花材を調達したのよ」といったとても印象的なお話を伺い、感激したことは忘れられない思い出です。

 凛として、それでいて優しさが滲み出る石橋先生。ご出身地・北三陸の魚介類をお弟子さんにプレゼントされたり、積極的に海外に出向いて小原流いけばなの指導に尽力されたりと、さまざまなお話から多くの刺激をいただくうちに、あらためて支部運営に賭ける私の情熱が呼び起こされていきました。講師を卒業されてからも海外での仕事もこなされ、お会いするたびに元気溌剌として大変お美しく、生き生きと活動されている姿には憧れるばかりです。
 石橋先生が所属される東京支部の花展が開催される折には、毎回会場に伺って先生にお会いし、たまに食事をご一緒させていただいています。電話やメールで近況報告をする際も、支部運営のアドバイスをくださったり、多くのことを学ばせていただいております。国立公園に指定された八戸・種差海岸の四季折々の花々や、美しい海岸線の様子などをお伝えすると、故郷の美しい自然のことを思い出されるようです。

 また、石橋先生の姪御さんはイタリア人の大学教授と結婚され、現地で画家として活躍しておられます。夏のバカンスには、姪御さんが二人の娘さんを連れ2カ月ほど八戸近郊の町に滞在し、八戸のデパートで作品展を開催されています。
 姪御さんのお嬢さんたちは日本文化が大好きで、昨年に続き今年も浴衣姿で「伝統文化いけばなこども教室」に参加してくれました。一緒にお食事をしたり、イタリアでの生活の様子をお聞きしたりと、楽しい時間を過ごすことができて幸せに感じます。瞳が美しく可愛いお嬢さんたち。このご縁も石橋先生から頂戴した大切な宝物だと感謝しています。


日本文化に触れる「和日カフェ『浴衣を着ておもてなしのお花をいけよう』」(2018年8月)
 中央の列・手前が石橋先生の姪御さんの娘さん 

恩師であり“母”でもある伊藤光翆先生との出会い
今も教えを大切に受け継いでいます

 いけばなを始めたのは小学校時代で、家族に勧められたのがきっかけでした。しかし中学・高校ではバレーボール部に所属し、いつしかお花とは縁遠い生活を送るようになっていました。転機が訪れたのは29歳の時。結婚し、夫の転勤で東京都板橋区に住むことになったのですが、区の広報の「勤労福祉会館での華道教室生徒募集」の記事が目に飛び込んできたのです。その後、ご近所に伊藤光翆先生のご自宅教室があることを知り、先生の魅力に引き寄せられるようにご自宅教室に通い始めました。
 伊藤先生はいけばなのご指導はもちろん、お料理も大変お上手で、おせち料理、ひな祭り、端午の節句など、季節の節目にお料理の作り方を教えてくださって、それを一緒にいただくのが慣例になりました。さながら“東京の母”のような伊藤先生の、「自分で身につけた技術は誰にもはがされることはない」という教えは今も心に残っており、その教えは私の生徒たちにも引き継いでいます。私たちは難しい時代を生きていますが、「本物を身につけた者だけが生き残る」と、常に自分にもそう言い聞かせています。

 4年間の東京生活の後、私は八戸支部に移りましたが、伊藤先生が100歳をお迎えになられた現在も電話で近況を報告し合うお付き合いをさせていただいています。私が八戸支部長に就任した折にはご自宅に迎えてくださり、心のこもった手料理でお祝いの席を設けて「私のお弟子さんが支部長になった。うれしいし、自慢だ」と、とても喜んでくださいました。振り返ると伊藤先生との出会いが、私と小原流いけばなの原点であったと思います。


恩師の伊藤光翆先生と、先生のご自宅にて。右が荒瀬さん(2012年4月)

花展やイベントに創意工夫を凝らす八戸支部
若い会員にも活躍の場を与え、新しい風を吹き込んで

 八戸支部では、明るく、元気で、楽しい支部づくりに力を注いでいます。支部幹部に思い切って若手を登用し、フレッシュな雰囲気を感じさせる役員構成で会員の意見を集約できる体制づくりを目指しています。会員は一級家元教授の比率が高く、今後若い方に入会していただくのが大きな課題ですが、「一人でも多くの市民に小原流の素晴らしさを!」をスローガンに、会員増加につなげるさまざまな対外的活動にも全力を注いでいます。また、花展等を通じて市民の皆様に小原流の高い芸術性をご覧いただけるよう、幹部の意見を集めて全体の構成を企画。専門教授者会議に諮り、最終的に内容を決定しています。花展では、その回ごとにテーマを明確にし、出品者全員の心を一つにすることが、成功のカギを握ると考えています。
 これからも小原流の伝統をしっかりと踏まえながらも、マンネリに陥ることなく、常に変革に挑み、挑戦する姿勢を保ち続けたいと思います。


「八戸文化協会総合華道展」で幹部一同と。中央着物姿が荒瀬さん(2018年10月)

 支部活動では、年一回の「みんなの花展」を地元新聞社のホールで開催し、記事に取り上げていただけるよう働きかけています。また、市の交流施設「八戸ポータルミュージアム はっち」では日本の伝統文化に触れることを目的とする「和日カフェ」を開催し、浴衣や着物での無料体験教室を実施しています。


デーリー東北読者クラブいけばな講習会「クリスマス花から正月花へ」
  (デーリー東北ホール 2014年12月)
「みんなの花展」出品作(デーリー東北ホール 2018年3月)

 さらに、文化庁伝統文化いけばな親子教室の開催のほか、八戸学院光星高校の正課授業として生徒100名を対象に小原流講座を担当。学生いけばな競技会にも参加し、家元賞受賞などの実績を積み重ねてきました。
 市民病院や赤十字病院では患者さんや見舞客の皆さんの心を和ませるロビー花展を開催しているほか、JR八戸駅や本八戸駅の構内では365日のいけばな奉仕活動を続け、2018年で60年目を迎えました。2017年には長年にわたる活動が認められ、JR東日本から社長感謝状も贈られました。


JR八戸駅・本八戸駅における『いけばな奉仕活動』表彰式にて。右から2番目が荒瀬さん
  (2017年10月)

 98名が出展する八戸市文化協会総合華道展では、6流派中最大人数の28名が出品。また花供養祭にも参列しています。
 その他、最近では地元新聞社の玄関ロビーなどにおいて、新聞紙で作った造形作品を通年で展示し、訪れる市民の皆さんに小原流の美意識を多彩な表現方法でアピール。新聞社の主催事業に組み込んでいただくなど、活動を通じて小原流いけばなの情報発信を積極的に行っています。


「八戸市文化協会総合華道展」出品作(2017年10月)

新聞紙で作ったクリスマスツリー
  (デーリー東北新聞社玄関ロビー 
   2017年12月)

 2016年、八戸支部は創立60周年の節目を迎えることができました。小原流研究院副院長の鈴木英孝先生のご指導の下、支部会員120名が出品する記念花展「千紫万紅」と記念祝賀会を開催し、祝賀会には小原規容子理事長をはじめ、理事、支部連合会会長、各支部長の皆様方のご臨席を賜りました。
 支部長に就任してから4年が経過していましたが、周年花展の準備や祝賀会の細かな手配など、すべてが初めての体験で、時には途方に暮れることもありましたが、鈴木英孝先生をはじめ諸先輩方にご相談しながら準備を進めていきました。
 中でも当時、多賀城支部長を務めておられた宮城県支部連合会副会長の福田光春先生から多くの貴重なアドバイスをいただいたことが印象に残っています。支部長会議の会場や、あるいは移動の車内など、いろいろな場所で福田先生の姿をお見かけするたびにいろいろとご質問しましたが、いつも快く助言をくださいました。多くの方々のお力添えにより記念花展・祝賀会ともに無事に終えられたことに、あらためて感謝申し上げます。


「八戸支部創立60周年記念花展」出品作(2016年5月)

趣味の草絵が導いてくれた古典芸能の世界
「本物」に触れる大切さはいけばなと同じです

 いけばな以外の趣味は、和紙を台紙に貼り付けて作品を形作っていく「草絵」で、草絵の創始者である故・妣田(ひだ)圭子先生に師事しました。才能にあふれ、多くの芸術家との幅広い交流をお持ちだった妣田先生のお導きで、私も多くの芸術家と引き合わせていただきました。そのような出会いを通じて、歌舞伎や文楽、能狂言などの古典芸術の魅力に目覚め、それらが大好きになりました。
  妣田先生のご友人に文楽の人形師、人間国宝の初代・吉田玉男さんがいらっしゃいました。玉男さんの楽屋に連れて行っていただいた際には文楽の鑑賞の仕方を教えてくださり、文楽では人形の右手が命であることや、足の使い方など、さまざまな知識を教えていただきました。


文楽の人形と(2018年10月)

 このように古典芸術に触れることで、本物だけが持つ素晴らしさを体験できるのは何ものにも代え難い喜びです。同じ伝統文化であるいけばな小原流の真髄に少しでも近づくことができるのではないかとも感じています。

【荒瀬 豊波さんに一問一答】

好きな花

山アジサイです。可憐な姿で長く楽しめるのが好きです。自宅の庭でも心を和ませてくれます。

好きな演奏家

若林暢(のぶ)(ヴァイオリニスト)

好きな曲

アルバム「魂のヴァイオリニスト」収録曲はすべて素敵です。

マイブーム

ゴルフ。お花は静の世界なので「動の世界を」と2018年3月から始めました。まだ9カ月ですが、数回ラウンドも回り楽しんでいます。

荒瀬豊波さんからご紹介いただいた次回の「いけばなじん」は、福田光春さん(多賀城支部)です。八戸支部の周年花展が2016年5月、多賀城支部が同年4月開催だったことから、当時多賀城支部長でいらした福田さんに花展準備についてアドバイスをいただいて親しくなったそうです。2011年の東日本大震災の時には、研究会をいち早く再開し、避難所で「いけばな体験会」を開催。多くの被災者の心のケアに尽力された正義感あふれる福田先生のお話、どうぞご期待ください。