みんなのいけばな

File No.102

三浦 秀蘇さん 河田枝水さん (千葉県・市川支部)

「いけばなの神様」に見守られながら
夢中で乗り越えた“教授者の壁”

人生を何倍も楽しくしているのは
学びへのあくなき探究心と継続力

驚くほど多趣味で知識豊富な河田さん。陶磁器鑑賞や海外の遺跡探訪など、興味深く面白いお話に、お聞きしているこちらもワクワクしてしまいます。いけばなへの造詣だけではなく、趣味の世界を極めるようになったきっかけも個性的です。そのターニングポイントや楽しみ方について、伸びやかな感性溢れるお話をお伺いしました。どうぞ河田さんワールドをご堪能ください。

美術鑑賞が好きで手作りケーキは絶品!
研修課程から始まった沖村さんとの楽しい関係

 研修課程V期1年目に沖村恵華さんと同じグループになったのがきっかけで知り合い、その後の幹部研修や東京開催の花展で沖村さんが上京された折に、一緒に食事に行ったり物見遊山したりと楽しいお付き合いを続けています。上京の際はできるだけ多くの美術館を見て回りたいと言われる沖村さんが、遠く熱海のモア美術館にまで足を延ばされたと聞いた時は、本物を見る経験を求めていらっしゃることに圧倒されました。都心で仕事をしているがゆえに、いつでもすぐに行けるからと先延ばしにしている私は、興味を惹かれる展覧会をつい見逃してしまうことを反省しています。
 そして、沖村さんといえば「ケーキ作り」です。腕前はプロ級で、近くに住んでいたら習いに行きたいくらいです。お土産にいただいたチーズケーキを生徒たちに出しても、皆さん口々に「お店のケーキよりおいしい!」と大好評でした。

指導者になって直面した“教えることの難しさ”
救いの手は「憑神」様から?!

 母がいけばなを始めて准教授の資格を取った時に、17歳の私を無理やり弟子にしました。ですので、私の小原流歴はなんと50年!半世紀!飽きっぽい母はすぐにやめてしまいましたが、母の性格を引き継がず何事も始めたら続ける性格の私は、母の先生の所に通い始めました。続けるといってもさほど熱心だったわけではなく、大学生になった当初、興味を惹かれる事柄が身二つほしいというほどあり、「いけばな」はズズッと隅に追いやられました。研究会に行き始めたものの一年の半分ほどしか出席せず、出席すれば遅刻という有様で、今思うとさぞや親先生はお困りになったことでしょう。今思い出すと顔が赤くなります。稽古は研究会のためだけ、研究会が終わるとすべて忘れてしまう、そんなとんでもない続け方でも、とうとう一級になってしまいました。なにしろワタシ、一度始めたらやめないので。しかし、ついに真っ青になる時がやってきました。なりゆきで教室を開いたものの、どうやって生徒を納得させられるか、どうすれば生徒が喜んでくれるか、答えが出なかったのです。
 そこから突然、いけばなの憑神(つきがみ)が降臨したごとく、初めて“鬼のように”いけばなに取り組み始めました。研修課程T期免除のお知らせを受け取ったのを機に、U期参加を決め、苦節6年。研修を修了し、型がないといわれる写景盛花や琳派調いけばなの教えを求めてくる生徒の要望にも自信をもって対応できるようになりました。
 結局、実質的な小原流歴は、研修に行き始めた時から現在までの約10年です。残りの40年は一体なんだったのでしょうか?まるで蝉みたいな私です。

 
夜間学級の子供たちが楽しんだ作品(2016年)

 楽しんでもらういけばなを目指して、市川市立大洲中学校夜間学級でいけばな体験をしています。ほとんどの生徒がアジアを中心に海外から親と日本にやってきている子どもたちです。年に一度20〜25人ほどの参加者で開催し、型をあまり押し付けずに、なおかつ型を作っていく楽しみを感じてもらえるように心がけています。

今も鮮やかに記憶に蘇る
思い出の安宅コレクション展

 研修課程U期参加を決めたものの、何もできない自分に驚きました。同様に驚いた現在の先生が、手を尽くして集めてくださった過去問集をもとに、課題表を作って練習する毎日(なにしろ憑神様が降臨していますから)。先生には自分なりの「資料集」を作るように言われて、初めてちゃんとしたノートを作り始めました。苦手な花意匠、写景盛花自然本位、琳派調いけばなに泣かされましたが、そんな中で研修仲間にコツを教わったりヒントをもらったことが大きな助けになりました。支部の仲間が何気なく漏らした一言に、悩める私の目から鱗が落ちたことも幾度となくありました。また、考査で手を動かしている最中に、それまで理解できなかった教授のお言葉を突然理解できたこともありました。研修に参加したことで、わからないことが何かはっきりしてきたので、ヒントを聞き逃さなかったのだと思います。
 研修参加の道を開いてくださった先生と、力をくれた仲間は私にとって何物にも代えがたい宝物です。助けてくださった皆様に感謝。結局、何事もある程度の知識がなければ捉えきれないということなのでしょう。
 
 これについては特別な記憶があります。1979年、新宿・京王百貨店で開催された『安宅コレクション李朝名品展―小原豊雲との出会い』を観に行きながら、残念なことに名品に入った豊雲先生の作品はまったく記憶にないのです(豊雲先生ごめんなさい)。安宅コレクションは、この時すでに大阪市への寄贈が決まっていたようで、一度美術館入りとなれば、そこに花がいけられることはもう決してないのです。当時少しでも「花を見る眼」があったなら…と自分が残念でなりません。けれども、その時に見た李朝花器はしっかりと記憶に残り、後の研修の際に時間があれば大阪市立東洋陶磁美術館(安宅コレクションが収蔵されています)に行き、記憶の中の名品と再会するのが楽しみでした。この個展の2カ月後、東急百貨店本店で『安宅コレクション中国名陶展』が開催され、この時見て大好きになる『青花 蓮池魚藻文 壺』に出会うのですが、そこでも豊雲先生の花がいけられていたように記憶していたのは、どうやら勘違いをしていたようです(実際はそのような記録はありません)。今は、美術館のガラスケースの中で、花がいけられた昔の栄光を静かに思っているかのように見えます。
 現在、陶磁器鑑賞は私の趣味の一つです。きっかけは、おそらく支部から買ったか支給されたチケットで李朝名品展を見に行くという貴重な経験をしたことからです。豊雲先生とコレクションに花をいける許可をなさった安宅英一氏に感謝いたします。

 支部のある千葉県市川市は、江戸川を挟んで東京と隣り合っています。三方を大きな支部に囲まれていますが、小さい支部では支部長はじめ幹部と会員の距離は近く、全員が親しい知り合いのようになれます。常々、この利点を生かした支部運営を考えています。また、幹部の人数が少ないので、幹部ひとりが幹部研修に出席できる率が高いのも利点です。


幹部研修会にて・花意匠(2017年)

 『みんなの花展』では、会員数が少ない割には、作品の種類の多さが自慢です。毎年、花意匠から造形まで小原流のすべてを見せる花展になります。会場設営に参加してくれた若い人たちが、課せられた仕事だけでなく自分たちで必要と判断して動いてくれた時は、支部の将来は暗くないと心強く感じました。


「みんなの花展」琳派調いけばなの作品群(2017年)

 今年は会場に変化を出し、琳派調いけばなを身近に感じてもらうため、花器を床近くに置いてお客様に俯瞰してもらう趣向を考えました。小判型基本花器を一人2面使って、6名分の作品を組み合わせて大作に。参加した方からは「自分でこんな大きい花がいけられるなんて感激!」「連作になっていくのが快感!」という感想をいただいて、生徒に楽しんでもらういけばなを目指している私もうれしかったです。

 また、2017年の関東・信越地区青年部野外展では「マジッ?青年部」と名乗って参加。家元と並んで写真を撮らせていただいたり、同部屋になった銚子支部の愉快な皆さんとゲラゲラ笑い転げたりという楽しい経験になりました。


関東・信越地区青年部野外展 現地設置参加者と作品(左から2人目が私 2017年)

趣味は親友と古代ローマ遺跡を巡ること
趣味の話は尽きません!

  『安宅コレクション李朝名品展―小原豊雲との出会い』を見て以来、洋の東西を問わず陶磁器鑑賞が趣味になりました。もうひとつ、「ローマ帝国の遺跡を見に行く」という趣味もあります。高校以来の親友が「ローマ帝国の壁愛好家」で、私が「ローマ帝国の建築と都市インフラ愛好家」。二人の興味が重なって主にイギリスやイタリアによく出かけてきました。旅を企画することも趣味のひとつで、ローマの壁を取り込む形で建てられた博物館があるトリノ行きを企画したのは、トリノ五輪で荒川静香さんが金メダルを取った翌年のことでした。圧巻だったと自画自賛の企画は、イギリスの東海岸ニューキャッスルから西海岸カーライルまで続く「ハドリアヌスの壁」に行く旅(ハドリアヌスは、ヤマザキ マリ作コミック「テルマエ・ロマエ」に出てくる皇帝)です。


延々と続くハドリアヌスの壁の上を歩く(2008年)

ブラタモリみたいにヘルメットを着用して
「黄金の家」の発掘現場に入り、
専門家の解説を聞く(2017年)

 また悪名高い皇帝ネロが建てた「黄金の家」の発掘現場、ローマ中心部にあるローマ帝国時代の下水道システムの発掘現場を見ることができる博物館も訪れました。


偶然、ヴェルディ生誕記念祭開催中に立ち寄ったイタリアのパルマの劇場。30日間毎日オペラの上演があり、ほとんどのチケットが売り切れというのは、さすがヴェルディゆかりの地(2007年)

 国内の建築物を見るのも好きです。研修V期でインテリアの講義を受けた時、「日本の民家は屋根と基壇でできている」という説にガーン。私が以前から考えていた説がすでに存在していたのか、と残念至極でした。特にお寺の屋根の曲線は実に心地よく、巨大な屋根なのに浮遊しているように見えます。私の癒しはお寺の屋根にあり。
 お寺といえば、仏像に会いに行くのも趣味の一つで、7体ある国宝の十一面観音像のうち、2017年11月に滋賀・渡岸寺の観音様を拝観し、残りは3体となりました。 


最近見た建築の中で特に気に入った、京都の青蓮院青龍殿に期間限定で設置された
  吉岡徳仁氏のガラスの茶室

 学生時代に地震学を学んだので、地球科学に新風を吹きこんだ「プレートテクトニクス」理論に出会って以来、地形図を眺めることも時を忘れるほど好きな時間です。日本列島の成り立ちに関する情報と最近出版された『赤色立体地図』を並べてみていると、過去に日本列島に何が起きたのかと、妄想がどんどん膨らんでいくのです。

【河田 枝水さんに一問一答】
好きな花: 中心まで紫色の一重の鉄線
好きな作家: 小説ならSarah Dunant。イギリス人でありながら、15、16世紀のイタリアを舞台にしたサスペンスタッチの歴史小説を書いています。和物では、池波正太郎。
好きな作品: Dunant『In the Company of the Courtesan』(16世紀混乱のローマからヴェニスに逃れてきた高級娼婦とその相棒の小人の話)。
池波作品では『藤枝梅安』。コミック版もいいですが「良い子の皆さんは見てはいけません」的なので、電車の中で開くのはちょっと差しさわりがあります。
マイブーム:

最近のブームは、千葉県10「低山」の制覇。県内最高峰でさえ、わずか408mですが、遠目にマッターホルンにそっくりの伊予ケ岳には鎖場さえあります。


登頂千葉県最高峰(2017年)

もう一つは、桂文雀さんの落語。芝居をテーマにした落語が秀逸で、ひいき筋が増えるとうれしいです。


河田枝水さんからご紹介いただいた次回の「いけばなじん」は、奥主豊恵さんです。研修課程U期で、同じ千葉県人ということで親しくなったそうで、とにかく愉快で一緒にいるだけで楽しいムードメーカーだとのこと。2017年の青年部野外展では、持ち前の明るさでこれからの銚子支部を支える若手の一人として、少人数参加だった市川支部の皆さんもフォロー。将来に期待できる人材だということです。どうぞご期待ください。

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