みんなのいけばな

File No.39

井上 豊陽さん 井上 豊陽さん 兵庫県/神戸支部

教える立場から学び、励まされる日々。「見る力はいける力」、いけばなも美術も人の心を動かす自己表現。

人と人のつながりで紹介していくリレー形式の「いけばなじん」。

 美術の教師として人生を歩みつつ、いけばなにも心を寄せてこられた井上さん。素材は違えども、創造への喜びと人との出会いのすばらしさは、いけばな、美術ともに共通するものだとおっしゃいます。目で見て感じて作る表現のバトンを次の世代へとつなごうとする井上さんのいけばな人生をお話しいただきました。

第一印象そのものの誠実さ。濱口先生には未来へのエネルギーを感じます。

 2012年8月19日に盛花記念会館で近畿中部地区青年部作品展が開かれた際、濱口先生とはその会場で初めてお会いしました。以前、凛花スクールの講師仲間だった松井豊桜先生が紹介してくださったのです。
 それ以前にも、濱口先生のお名前は小原流会報誌『華路』の記事で拝見し存じ上げていましたが、実際お目にかかった第一印象も、落ち着いて折り目正しい好青年。“関西のおばちゃん”のノリでお尋ねした私の質問にも、一つひとつ考えながら丁寧に答えてくださり、誠実なお人柄を感じました。経済学というご自身の専門分野だけでなく、いけばなをはじめとした日本文化全般にも造詣を深め、さらにそれらを世界に向けて発信していこうという志を持った、まさに、未来へのエネルギーにあふれた方だと思います。現在はいけばなの教授活動もなさりながら、パリ留学も計画中だとか。若い濱口先生のこれからのご活躍を私も楽しみにしています。


第20回近畿中部地区青年部作品展会場(盛花センター)にて
左から濱口先生、松井先生、井上先生、前に松井先生の息子さん(2012年8月19日)

大学では美術を学び、中学校の教師に。林豊扇先生のお教室で転機を迎えました。

 母が自宅で茶・華道を教えておりましたので、私は大学入学を機に、友人とともにお稽古を始めました。社中展やお茶会などのイベントも多く、いつもにぎやかで楽しいお稽古でした。社中で一泊温泉旅行を兼ねて陶芸制作に行ったことも懐かしい思い出です。私は今、そのとき母が作った大きな水盤を借りて写景自然をいけています。当時の母は教授者として充実し、楽しそうに過ごしていたという印象が強いですが、今思えば母も教授活動と家事や子育ての両立と、大変な時期だったのだと思います。
 もともと美術が好きだった私は、大学でも美術を専攻しました。学生時代に子供会のリーダーを経験し、教育実習で生徒たちと触れ合ううちに、ともに学びともに創る楽しさを実感し、教師の道を選んだのです。大学卒業後は、神戸市立中学校で美術教師として8年間勤めました。その間は仕事が忙しくてお花を手にする時間も少なく、その後、結婚、出産と続き、次女の中学進学で子育てにも一区切りついたころ、ようやく再びお花に向き合えるようになりました。そのときに、母がすすめてくれた林豊扇先生のお教室の門を叩いたことが、私のいけばな人生の大きな転機となります。


「花の輪・人の輪−みんなの花展」出品作品(三井住友銀行神戸営業部ロビー 2010年10月8日)

「みんなの花展」体験コーナーでの指導風景
(2011年5月29日)

「「凜花スクール作品展」での指導風景
(2009年8月29日)

 お教室では、ベテランの先生方がびっしりと書き込まれたノートを手に真摯にお稽古されているお姿や、林先生による魔法の一手などを目の当たりにしました。それは目から鱗が落ちるような思いで、仕事や家事育児を優先して母に甘えていた私も、受け身ではなく積極的に学ぼうという意識に変わりました。林先生は長年講師をなさっていた豊富な経験から、どんな時も的確で丁寧なアドバイスをくださいます。また、大阪家元教場では、林先生のご紹介により難波佳代子先生のご指導を受ける機会もいただきました。まだまだ自分の未熟さを思う日々ではありますが、これからもすばらしい先生方からできる限り多くのことを学び、若い方々へ伝えていければと思っています。

 最近、嬉しい思い出が一つ増えました。凛花スクールの生徒さんの結婚式があったのです。披露宴受付には彼女がスクールで出会った生徒さん姉妹が座り、花嫁手づくりのウェルカムフラワーが会場を彩りました。もちろん、美しいブーケも花嫁手づくり。彼女は、いつかいけばなの先生になりたいと言ってくれました。その言葉は今も私の励みになっています。

教職に復帰し、再び生徒と向き合う日々。いけばなへの創作意欲も旺盛です。


修学旅行で生徒たちと(新神戸駅 1995年)

七宝焼作品「トランプ」(1981年)
国際七宝日本展入選
神戸市民展「神戸新聞社賞」受賞

 現在は再び教職に戻り、私立の中高一貫校で美術の講師をしています。中学1年生から高校2年生までの生徒に絵画、デザイン、彫塑、工芸などを指導していますが、彼らには各分野でできるだけ多くの素材に触れ、創作活動の喜びを味わってもらいたいと思っています。新しい教材を教えるときは、どんなふうに伝えれば子どもたちの創作意欲をかきたてられるか、いつもいろいろと頭を悩ませます。けれど、それがまた一番やりがいのある瞬間でもあるのです。美術の授業で私が教材を楽しんでいれば、それは子どもたちに伝わります。同じようにお花の指導においても、まず自分自身が楽しむことが大切だと思います。子どもたちが目を輝かせながら創作に取り組んでいる姿を目にすると、いっそうの達成感を感じます。
 クラス担任として生徒指導では苦労しました。しかし、多くの方々に助けていただきながら試行錯誤したことが自分自身の成長にもつながったと思っています。生徒にアンケートをとったおり、「今まで苦手だった美術が先生の授業で好きになった」と書いてくれていたのが本当にうれしい思い出です。

 いけばなでは、神戸支部の幹部として研修の係を務めながら、作品出品も続けています。2008年は兵庫県民会館で開かれた神戸市いけばな協会の花展や「花の輪・人の輪−みんなの花展」、青年部作品展に参加しました。2010年は『小原流挿花』の「花産地を訪ねて」コーナーに作品を展示。そして、今年2012年は、神戸大丸で開催された兵庫県いけばな協会主催の花展に出瓶しました。そのほか、母校では毎年、入学式や卒業式の舞台花を母とともにいけており、喜びの春にお花を添えてお祝いできることに感謝しています。


2010年10月号『小原流挿花』中の「花産地を訪ねて」
上:取材で訪れた丹波ホトトギスの里にて
(8月29日)
左:神戸ポートピアホテルでいけた作品
(8月30日)

自宅でのいけばな教室は和やかに。娘たちにも、いけばなの素晴らしさを伝えたい。


ノルウェーの牧師さんの奥さんとのお稽古風景
(2005年12月)

兵庫県いけばな協会主催「いけばな神戸展」に
出品した作品(2012年4月12日)

 いけばな教室は自宅で開いています。生徒さんはご近所の主婦仲間や職場で知り合った方々。お稽古では明るく和やかな雰囲気づくりを心がけ、お稽古後のティータイムは、貴重な情報交換の場ともなっています。
 以前のことですが、ノルウェーの牧師さんの奥さんが4年ほどうちでお稽古をされたことがありました。彼女は、4人の子育てをしながら英会話やお料理の教室をされるパワフルな方で、いけばなも熱心に学ばれ、英語版准教授のライセンスを手に帰国されました。お稽古は、英語と日本語のミックスでしたが、私にとっては異文化圏の方にいけばなを伝え、また多くの未知のことを学ぶ、刺激的で楽しい経験でした。彼女としても、来客の多い自宅や子どもたちが通うノルウェー学校に作品を飾り、いけばなを楽しんでくれていたと思います。自然に対する意識や、周囲の方への繊細な思いやり、謙虚な姿勢など、北欧というお国柄か、我々日本人の感性に通ずるところが多く、お花でも殊に日本的情緒にあふれた作品に感動してくれました。
 このように美術教師といけばな教授者という二足のわらじを履き、活動してきました。取り扱うものに違いはありますが、どちらも目に見える形の自己表現である点は共通しています。花をいけている時も、美術作品を作っている時も、自分の中の創造力をかき立て、出来上がったものは見る人の心を動かす力を持っています。デッサンを習っていたころ、強く心に残った言葉に「見る力は描く力である」というものがあります。今は、それを言い換え「見る力はいける力である」を実感する日々です。



神戸支部創立80周年記念花展にて
(神戸ポートピアホテル 2009年11月14日)

 毎日忙しい日々ですが、中断している英会話の勉強を再開し、できればまた外国の方々とも文化についての意見を交わせる機会があればいいなと思っています。母が私にいけばなを伝授してくれたことでつながったように、私も娘たちにお花のすばらしさを伝えていきたいと思っています。

【井上 豊陽さんに一問一答】
  • 好きな花/椿
  • 好きな小説家、作家/ル・グウィン、上橋菜穂子、河合隼雄(心理学者)
  • 好きな画家/パウル・クレー、クリムト
  • おすすめの本/河合隼雄の著作では『物語をものがたる』『子どもの本の森へ』など
  • マイブーム/体力増強(意識的に運動を心がけようと思っています)、焼き物の里を訪ねること(できれば美味しいものと温泉もセットで)

井上 豊陽さんからご紹介いただいた次回の「いけばなじん」は、安原 芳里さん(倉敷支部)です。気配り上手で包容力を感じさせる明るい笑顔が魅力的な女性で、もっと一緒にいたくなるような居心地のよさを醸し出してくれる素敵な友人とのことです。どうぞご期待ください。

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